あまりもの激変ぶりに日本中が沸いた、いや世界中から脚光を浴びるまでに大進化した新型クラウン。姿かたちは大きく変化しても、そこには歴代が培ってきた変わらない精神が息づいている。ベテランから若手まで三重トヨタ整備士4人に、時代を彩った歴代クラウンと新型クラウンについて思いを語ってもらった。
最新技術はいつもクラウンから! 所有することも、直すこともステータス
━━━皆さんの中でクラウンはどんな存在ですか?
半根:私が三重トヨタに入社したのは6代目(1979~1983年)がマイナーチェンジしたころ。クラウンを所有することはもちろんステータスやったけど、クラウンを直すこともステータスやったね。
6代目クラウン(1979~1983)
第2次オイルショックの中、奇をてらうことなく直線を基調とした正統派スタイルで登場。快適性能向上だけでなく、軽量化などで燃費改善も図られた。全長4860mm×全幅1715mm×全高1410mm(2800ロイヤルサルーン)■初搭載装備:トヨタ初のターボエンジン、世界初のマイコン制御AT、世界初の2段折れ後席パワーシート
伊藤:私はクラウンを直すことが夢で、三重トヨタに入った。クラウンの進化が自動車の進化。最先端技術はいつもクラウンから。だから整備士の腕をあげようと思ったらクラウンを直すのが一番。6代目だけ見ても、トヨタ初のターボエンジンとか、世界初のマイコン制御ATとか。とにかく新型が出るたびにワクワクしたなー。
半根:メカニズムの進化は、私ら整備士からすると特に興味深いところで、なかでも2.8リッターの5M-GEUエンジンは見た目からして美しかった。エンジンフードをあけたとたん、すっごいオーラを放って、こいつは走るなっていうのが直感でわかった。個人的に5M系のような直列6気筒が一番好きなんやけど、8代目(1987~1991年)のV8エンジンも感動した。あのセルシオに先駆けての採用で、クラウンを超えるのはクラウンしかないという気概を感じた。
5M-GEUエンジン
エンジンの吸排気弁を従来の1つ(SOHC)から2つ(DOHC)にして高性能化を図った2.8リッター直6エンジン。最高出力170PS、最大トルク24kgm。当時最強クラスのスペックを誇りながら静粛性、経済性、整備性にも優れていた。
8代目クラウン(1987~1991)
バブル景気真っ只中、堂々たるワイドボディと多数のハイテク装備を引っ提げて登場。歴代最高の販売台数を記録した。全長4860mm×全幅1745mm×全高1400mm(3000ロイヤルサルーン)■初搭載装備:エレクトロマルチビジョン、世界初のデュアルビジョンメーター、世界初のCDインフォメーション、世界初の後席用液晶カラーTV(天井格納式)、日本初のTRC(トラクションコントロール)、4リッターV8エンジン
ゼロクラウンの衝撃! 正月の内覧会は長蛇の列
伊藤:スゴすぎといえば、12代目(2003~2008年)のゼロクラウンもはずせない。プラットフォームは完全新設計で、エンジンはクラウン史上初のV6。フレーム構造の9代目(1991~1995年)からモノコック構造の10代目(1995~1999年)になったときも注目を集めたんやけど、ゼロクラウンは見た目も劇的に変わって、チーフエンジニアの加藤三久さんとともにメディアでばんばん取り上げられた。
12代目クラウン(2002~2008)
「静から躍動への変革」を念頭に全てを一新して登場。エンジンは従来の直6から新開発のV6になり、世界トップレベルの運動性能を追求した。全長4840mm×全幅178mm×全高1470mm(3000ロイヤルサルーン)■初搭載装備:V6エンジン、スーパーインテリジェント6速AT、電動パワーステアリング、ナイトビュー、スマートエントリー&スタートシステム
阪口:実際、お客様からの反響もスゴかったですよね。正月に内覧会をやることになって、それを聞いたときは、三が日に誰が来るねんって思ったんだけど、いざふたを開けたら開店前から長蛇の列。今でも鮮明に覚えています。「かつてゴールだったクルマが、いまスタートになる」っていう謳い文句も刺さりました。
━━━技術や機能で、印象に残っているものを教えてください。
半根:挙げたらキリがないけど、まずは初代のトヨグライドでしょう。トランスミッションがマニュアルミッションしかなかった時代に、いち早くトルクコンバータ付きのオートマチックを採用したってやつです。そもそも初代はドアが観音開きというのもユニークだった。
初代クラウン(1955~1962)
日本がまだ海外の協力を得ながらクルマを生産していた時代、トヨタ独自の技術だけで開発、生産。ロンドン・東京5万㎞ドライブを敢行するなど日本のものづくり力を世界に発信した。全長4285mm×全幅1680mm×全高1525mm(RS)■初搭載装備:トヨグライド(AT)、乗用車専用シャシー、観音開きドア、1.5リッターエンジン(48PS、10.0kgm)、前輪ダブルウィッシュボーンサスペンション
伊藤:4代目のバキューム式ドアロックも話題を集めたな。今みたいに電気仕掛けではなく、真空の原理でやる。エンジンをかけないと動かないんだけど、当時は画期的。私は、三重トヨタに整備で持ち込まれた車両で初めて知った。初期のクラウンって、ローテクながら、かなり凝ってるんだよね。創意工夫に満ちてる。ひとつの部品からでも当時のクラウンにかける想いがひしひしと伝わってくる。
4代目クラウン(1971~1974)
空力を意識したスピンドルシェイプ(紡鍾型)をまとって登場。丸みを帯びたスタイルから「クジラ」の愛称で呼ばれた。全長4680mm×全幅1690mm×全高1420mm(スーパーサルーン)■初搭載装備:オートロック、カラードバンパー、キー忘れ防止ブザー、EFI(電子制御噴射装置)
阪口:私は、8代目のエレクトロマルチビジョン。未来感ぷんぷんで憧れました。それとスイングレジスター。エアコンの吹き出し口が自動で首振りするやつですね。決して目立たないけど、さり気ないおもてなしの心が感じられます。1990年代から2000年代まで伝統的に装備されていたんですけど、14代目には消滅しちゃいましたね。
エレクトロマルチビジョン
インパネ中央部のフルカラーディスプレイ(タッチパネル)に各種情報をマルチ表示する、いわば元祖カーナビ。
スイングレジスター
空調口のルーバーが自動で左右方向にスイングするというもので、10代目から14代目まで搭載されていた“伝統のもてなし機能”。代を重ねるごとに進化し、助手席の乗員を検知するなどで稼働領域を制御する機能も盛り込まれた。
目新しくて、いろんな個性を選べるのは、クラウンの伝統
半根:クラウンってデザインについても案外、目新しいことをやってる。有名なのは丸みを帯びた4代目(1971~1974年)の通称クジラなんやけど、あの頃は2ドアハードトップっていうスタイルが人気だったでしょ。クラウンはその最高峰としても存在感があって、6代目には屋根が部分的にレザー調になっているやつがあった。
伊藤:あった、あった。遠目からだと、幌付きのオープンカーに見えるっていうやつ。あれは目を引いた。
2ドアハードトップ
一般的なセダンに対してハードトップは窓枠とBピラー(側面の中央柱)がないのが特徴。洗練された雰囲気を演出でき、1970年代から1980年代にかけて流行した。クラウンは3~6代目まで2ドアハードトップを設定した。5~10代目に設定の4ドアハードトップは主力モデルに位置づけられていた。
池山:僕ら30代で、セダン以外のクラウンといえば11代目にあったエステートですね。隠れた名車だと思います。あの絶妙なサイズ感の高級ワゴンっていうのがもうないので、オーナーさんがなかなか手放さない。新型でエステートが復活しましたが、サイズ感が違う。それでも新型がクラウンらしいと思うのは、ボディサイズやタイヤサイズが大きくなっても実際の取り回しの良さは変わっていないこと。最小回転半径は5.4メートル。15代目の4WD車と比較して変わっていないいんですよね。
エステート
エステート=ステーションワゴンは1962年から8度のフルモデルチェンジを経て2007年までラインナップされていた。2022年、エステートの復活が発表された。
4WD(四輪駆動)
クラウンは初代から15代目まで後輪駆動が基本。11代目から加わった4WDもそれは変わらず、例えば15代目の4WDは前後輪トルク配分を30:70~50:50の間で制御した。16代目の新型は歴代初の全車4WD。走行条件に応じて前後輪トルク配分を100:0~80:20の間で制御する。
半根:新型はクロスオーバーを皮切りにスポーツ、セダン、エステートと4つの体系になることが発表されているけど、昔のクラウンだってセダン、ハードトップ、エステート、バン、それにピックアップまであった。つまり新型は往年のクラウンファンからすれば先祖返りなのよ。その点でも新型はクラウンらしさがちゃんと受け継がれている。
池山:今回クロスオーバーが出たことで、僕は俄然欲しくなりました。というか、憧れが一段と増しました。セダンだと正直、自分が乗っている姿が想像できないんですけど、クロスオーバーなら想像できるんです。
伊藤:私はエステート。まぁ、買えるならだけど。
阪口:自分ならスポーツ。半根さんは?
半根:やっぱりセダンでしょ。
池山:世代を超えて、こうして盛り上がれるのもクラウンの魅力なのかもしれませんね。