太陽光を動力源とし、排気ガスもなく静かに疾走するソーラーカー。
その競技用マシンを自作し、レースに挑む高校生たちがいる。
三重県立伊賀白鳳高校エコカー部だ。
顧問の奥守孝先生、部長の赤井蓮さんをはじめ、
彼らにソーラーカーの製作にかける思いを聞いた。
インタビュー
取材日:2021年1月
創意工夫で追い続けた四半世紀の集大成
- エコカー部の創設はいつでしょうか?
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奥 : 1996年です。前身の上野工業高校時代を含めて、かれこれ25年。今のソーラーカーは3代目にあたり、生徒たちのそれまでの経験や他チームとの交流を通して得た知恵や技術、工夫が盛り込まれています。この3代目は、25年の集大成なんです。
- 部員は現在、何人ですか?
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奥 : 13人です。1年生が8人、2年生が3人、3年生が2人。
- 1年生の人数が突出してますね。なにかあったのですか?
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奥 : 私も驚いているんですよ。こんなに多くの子が一度に入部したのは創設以来初めて。しかもその前の年度は女子2人が入部しまして、これもエコカー部史上初(笑)。
- 女子が入ったことで、部の雰囲気は変わりました? たとえば男子が色気づくようになったとか。
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奥 : それが全然。みんな、いたって真面目。最近の男子は基本、草食系ですからね(笑)。
- ソーラーカーの製作で面白いところってどこです?
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赤井 : 設計から製作まで自分たちでやっていって、それが実際に走るっていうのがすごくやりがいを感じます。それと自分たちで問題点を見つけて、自分たちで解決していくことです。
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奥 : うちのエコカー部は機械加工班、溶接班、電気班、データ処理班の4つの班があって、それぞれがときに連携しながら、ソーラーカーを進化させていくのですが、車体の部品は、まず原寸大で手書きするところから始めるんですよ。CADはあえて使いません。
- 地道な作業の繰り返しなんですね。
先輩から後輩へ、伝統が息づくものづくり精神
- ところで赤井さんがそもそもエコカー部に入ろうと思ったのはなぜ?
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赤井 : 中3のとき、この高校に入ろうと思っていろいろ調べていたらエコカー部があることを知って、それでソーラーカーに興味を持ち始めました。
- ソーラーカーに興味を持ち始めたということは、クルマが好きなのですね!?
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赤井 : あ、いや…、そうでも…ないです。
- あ、でも目標はやっぱり全国レースで一番になることですよね!?
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赤井 : うーん…、たしかに一番になりたいですけど、それよりも自分たちがつくっているソーラーカーの弱点や問題を見つけ出して、それをどう改善して、後輩たちに伝えていくか、といったところが大切だと思っています。
- スポ根的な汗臭いノリを勝手に想像していたのですけど、ちょっと違うみたいですね。
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奥 : 草食系なので(笑)。ちなみにエコカー部は文化部です。
- え、文化部なんですか。モータースポーツに挑戦するわけですからてっきり運動部かと。
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奥 : ソーラーカーのレースは、ほぼ空気抵抗との戦いなのですが、電装品の性能に頼る部分が大きくて、電装品が新しいほど有利なんですよね。バッテリーひとつとっても高価。そう簡単に買い換えることができないんです。
- いくらぐらいするのですか?
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奥 : この3代目に使っているモーターは90万円。ソーラーパネルは1枚6万円で、12枚貼ってあるので72万円。モニタリングシステムは40万円といった具合です。私たちエコカー部は、1台を10年スパンで長く使うんです。
- 結構しますね。
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奥 : これでも初代の時代と比べたらだいぶ安くなったほうなんですよ。さきほど文化部と言いましたが、運動部の要素もあります。特にドライバーは体力づくりのためのトレーニングが必要です。夏のレースはとにかく過酷で、冷房もないコックピットで暑さに耐えながら何時間も運転しなければなりません。
- どんな人がドライバーに向いているのですか?
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奥 : まずはハートが強い、臨機応変に処理できる、そして腕。これらを総合評価して決めます。ドライバー候補に課しているトレーニングは多岐にわたりますが、そもそも自動車を運転したことがないので、まずはスピード感を養う。それとラフな運転をするとすぐスピンしてしまいますから、いかにスムーズにコーナーを抜けていくかっていうハンドリングも。身体能力がある程度求められるんです。
- 体重が軽い人はドライバーとして有利なのですか?
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奥 : いえいえ。レースには重量規定というか、体重規定がありまして、例えば鈴鹿のレースだと75kg以上という規定があるんですよ。なのでドライバーが体重50㎏なら25㎏のおもりを載せるんです。
- ドライバーの面白さ、難しさって、どんなところなんでしょう。(部員一同に向かって)ドライバーの方、いたら手を挙げてくださーい
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奥 : すみません、今日ドライバーは欠席です。というかドライバーは4年前から卒業生にまかせてまして。それまではドライバーもうちの生徒でやるというポリシーを持って参戦していましたが、2013年大会にコースアウトでサスペンションが破損してリタイヤしたんです。そのときをきっかけにドライバーの起用の仕方を考えるようになり、現在に至ります。
- では、皆さんにうかがいます!クルマが好きな人、あるいはクルマでこんなことしてみたいと思っている人、いますか?
いたら手を挙げてくださーい。 -
生徒一同 : (2人が挙手)
- 手を挙げたキミ、好きなクルマはありますか?。
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福本 : ライトエースバン!
- 商用車できましたか。それにしてもなぜ?
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福本 : 親がライトエースバンに乗っていたからです。エンジン音が好きです!
- もうひとりのキミは?
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中西 : 僕は卒業したらGRヤリスを買います。
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奥 : 手を挙げたのは2人ですけど、みんな動くものが好きだったり、組み立てることが好きだったり、いわゆるものづくりが好きなんですよ。
- このTOYOTOWN名張には、いろんなクルマがいっぱい展示してあるから、トークショーが終わったらぜひご覧くださいね。ライトエースバンは展示してないけど。
エコカー部の活動を通して得たもの、それは自信
- エコカー部が24年連続して参加していた鈴鹿サーキットのレース、2020年大会はコロナ禍で中止、今年の大会をもって終了になるのですよね。
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奥 : とても残念です。国内では一番大きな大会で、毎年それに照準を合わせて活動していたので。あのレースの雰囲気を体験することって、とても重要なんです。チームワークの大切さを身をもって知ることができますし、うれしさやくやしさといった感情を全員で共有できる数少ない機会ですから。レースを体験することによって生徒は大きく成長するんですよ。
- エコカー部の挑戦、今後どうなるんです?
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奥 : 今年は秋田県で行われているレースに参加しようと考えています。コースが鈴鹿サーキットとは大きく違うので、いろんなことを練り直す必要があって、すでに動き出しています。
- 先生から見て、今後生徒に期待することはありますか。
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奥 : 進学する子もいますが、多くの子が就職します。その就職先で即戦力になれる、存在感を発揮できる、必要とされる、そういう人間になってもらえればと思っています。その過程のひとつがこの部活動にあると自負しています。今年は秋田にチャレンジしますけど、鈴鹿になかったものが秋田にはあると思うので、そこで新たなものを身につけてくれるとうれしいですね。
- 3年生のお二人、後輩に向けてのメッセージをお聞かせください。
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赤井 : 自分たちで考えたり、工夫したりしながらも、今まで受け継いできたものを次に入ってくる後輩たちに引き継いでもらえるよう頑張ってください。
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中西 : 自分のためになることをこの部活で見つけて欲しいっていうことと、僕自身も就職面接のときに、この部活を3年間続けてきたからこそ言えることもあったので、絶対将来役に立つっていう自信を持ってこの部活に取り組んでほしいなって思います。
- 本日はありがとうございました。
企画概要
- 企画名:
- 三重県立白鳳高校エコカー部競技用ソーラーカー特別展示
- 期 間:
- 2020年11月27日(金)~2021年1月31日(日)
- 場 所:
- トヨタウン名張店
- 協 力:
- 三重トヨタ自動車株式会社
この展示は、総合自動車ニュースサイト「Response.」(11/24)をはじめ、東海ラジオ三重情報(11/26)、毎日新聞伊賀版(11/28)、中日新聞伊賀版(11/28)、読売新聞伊賀版(12/2)、中部経済新聞(12/9)、朝日新聞伊賀版(12/19) の他、地元ケーブル局、NHK「まるっと三重」(12/22)、FM三重「アウトルックみえ」(1/20)で取り上げられ、反響を呼んだ。
「コロナ禍で鈴鹿を走れなかった高校生たちのソーラーカー、トヨタディーラーでお披露目 11月27日から」(Response.)