FUNVE 開発秘話&詳細解説 01FUNVEのはじまり秘話
ゴーグル越しに広がる異空間で運転が楽しめるARカート、FUNVE(ファンビー)。実際に利用した子どもたちからは「ゲームの中に入ったみたい」「不思議」「めっちゃ、楽しい!」と喜びの声が上がる。このFUNVEの開発秘話に迫ってみた。
ゼロからの手づくりでFun to Drive for kids!
日本が世界に誇る自動車メーカー、トヨタ自動車。従業員数7万人以上、連結30万人以上が日々汗水を流し、働いている。そのなかで部署の壁を越え、技術と知恵で子どもたちを楽しませることに情熱を傾ける、異色のコミュニティがある。team FUNVE(チーム・ファンビー)。業務時間外で活動する社内有志団体「トヨタ技術会」から誕生した技術者集団だ。
2019年の発足当時について、team FUNVEの中心メンバーである久保寺秀幸氏はこう振り返る。「子どもたちにモノづくりの楽しさやチャレンジの醍醐味を伝えたいという思いで有志24人が集まりました。ただ画期的な“何か”をつくろうにも、予算は限られているし、時間もありません。悩みました」
開発にかけられる期間はたったの3カ月。トヨタの技術をいかして、みんながアッと驚くことができないか、リアルとバーチャルの融合した企画ができないか――。こうして有志24人による開発が始まった。
リアルとバーチャルの融合
“何か”の構想はおよそ固まった。子どもたちが好きなゲームを盛り込んだ新感覚のARカート。ARはAugmented Realityの略で、現実世界に仮想世界を重ね合わせて表示する技術を指す。一般的に「拡張現実」と訳される。
今回、そのデジタルデバイスとして導入したのはマイクロソフトのHoloLens2(ホロレンズ・ツー)。ゴーグルに映像を表示するとともに、内蔵カメラで手の動きなどを検知することで、仮想世界を見るだけでなく、操ることもできる。
しかしHoloLens2があっても、自分たちのニーズに合わせてシステムを開発する必要がある。team FUNVEのメンバーはクルマづくりのプロであっても、ゲーム開発については全員、素人だ。プログラミング経験がなくても「子どもたちの笑顔のために」と自ら鼓舞し、本やネットで勉強したという。
特殊ホイールの独立制御で全方位へ移動可能
カート本体の動力源は電気で、バイク用バッテリーを4個搭載する。極めてシンプルなEV(電気自動車)と思っていいだろう。そのなかで最も特徴的なのがメカナムホイール。車両の進行方向を変える場合、一般的なタイヤのように前輪の向きを変えるが、メカナムホイールは4輪すべての回転差によって進行方向を変える。しかも旋回や平行移動もできるところがユニークだ。
「メカナムホイールは、工場や狭いところを走る業務用カートなどで使われています。FUNVEが装着しているメカナムタイヤも一般に市販されている汎用品です。4輪それぞれにモーターを配して、個別に制御します」(久保寺氏)
つまりモーターをタイヤホイールに直結させた、いわゆるインホイールモーターのような仕組み。最高時速は20kmほど。ARに合わせて時速12kmまでに抑えられるが、曲がったりするときに重力加速度が感じられるよう、車両の動きに合わせてシートが左右に傾くようになっている。
ゲームは2種類、ジョイスティック操作も!
メカニズムの工夫もさることながら、久保寺氏がもっともこだわったのはカート本体のサイズとデザインだという。「まず乗用車で運べること。FUNVEを愛車の荷室に載せて親子で一緒に遊びにいこう、というシーンを想定しながら開発しました。それとデザインはやっぱり大切で、限られた予算内で最も大きな割合を占めています。部品のほとんどは市販されている汎用品ですが、FRP製のボディはワンオフ。コンセプトカーなどショーカーを手掛けているところに依頼しました」(久保寺氏)
開発中にテスト走行をしたのはteam FUNVEのメンバーはもとより、彼らのお子さんたち。大人では思いつかないような意見、指摘が寄せられたという。「例えば幼い子ですとステアリングをうまく操作できないんです。ペダル操作もできません。幼い子に合わせてステアリング位置とペダル位置をそれぞれ調整できるようにしていたんですが、それ以前の問題だったんですね。そこで2つのジョイスティックでも運転できるよう、設計を見直しました」
ゴーグル越しに広がるのは見たこともない世界。牧場で動物を捕まえる「アニマルレンジャー」または砂漠や雪山で障害物を避けながらタイムを競う「ワイルドレーサー」の2つのゲームが展開され、カート本体の動きと完全にシンクロ。子どもたちはもちろん、大人たちも虜にする。「モノづくりの楽しさやチャレンジの醍醐味を伝えていきたい」「笑顔を見たい」という技術者たちの想いが詰まったARカート。それがFUNVEだ。
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